歯周病の高い罹患率

歯の健康に対する意識の向上(『8020運動』による)や審美的意識の向上、また年齢にかかわらず矯正歯科治療が可能であるとの認識の広まりによって成人矯正の割合は年々増加する傾向にあります。顎矯正治療においても同様で、東京医科歯科大学歯学部附属病院(顎顔面矯正学分野)において長濱院長らがおこなった臨床統計的検討(第16回日本顎変形症学会において発表)から顎変形症手術件数は保険適用に伴い急速に増加し治療対象は高齢化の傾向を示すこと、特に中年以降の顎変形症患者に対する手術数は近年顕著な増加を示すことが示唆されました。

 

しかし一方で、歯に対する意識レベルは確実に向上しているにもかかわらず外科的矯正治療を希望する患者の初診時口腔内において、中年以降の患者は、10代、20代の患者とはことなり重度の歯周疾患、多数の補綴物や欠損歯など咬合崩壊をきたしていることが日常臨床の場において多く認められ、矯正治療を行う点においても8020を達成する点においても大きな障壁となっています。

 

これまで顎変形症に起因する咀嚼・発音障害、審美障害や手術方法についての報告は数多くなされてきましたが、顎変形の影響により歯周疾患の重度や罹患率が高まる可能性が容易に推察されるにもかかわらず、ほとんど指摘されてこなかったため、一般的にはあまり知られていないようです。一般成人の歯周疾患罹患率は6割以上と、なんと半数以上が歯周初期治療の必要性があります。顎変形症の患者さんにおいては、QOL向上をめざし、さらに徹底した歯周病予防と治療を行う必要性があるのではないでしょうか。

 

矯正歯科治療中の患者のオーラルハイジーン・コントロール(口の中を衛生的に保たせること)の成否は、治療の結果を左右する重要なポイントの一つです。オーラルハイジーンが治療中に悪化すれば、歯周疾患、虫歯の罹患リスクが大きく高まることが知られています。

良いかみ合わせを健康的に長く維持していくためには、矯正歯科治療前、治療中、治療後の継続的な口腔ケアが大切です。矯正歯科治療に伴ってケアの方法が若干難しくなり工夫が必要になりますが、ここで身に付けた習慣は将来の健康維持に必ずお役にたちます。