こども(小児期)の矯正治療

こどもの不正咬合

 

上下の歯が適切に咬み合っていない状態を不正咬合といいます。上顎(あご)と下顎の位置がずれている骨格性のもの、歯と顎の大きさのバランスが悪いことによって歯ならびが凸凹になったり、すきまが生じる歯性のもの、またそれらが合わさったものなどさまざまな種類があります。舌や口の周りの軟組織(皮膚・筋肉・小帯など)も歯ならびに影響し、不正咬合を生じさせる原因となることがあります。

 

歯ならびが悪いと、こどもにとって肉体的なものばかりでなく、しばしば精神的にも負担となります。むし歯・歯槽膿漏・外傷(前歯が出ているお子さんでは歯をぶつける頻度が高い)および顔の歪みの誘因となったり、食物をよく咬むことが出来ず消化器官、胃や腸に負担がかかる、正しく発音しにくいことなどが考えられます。また特に見た目を意識した場合は社交性が乏しくなることがあります。

こどもの矯正は、上記問題を生じさせないよう早期発見・早期改善・成長の管理と予防を行うことでお子さんの健全な発育を促します。

 

こども矯正の目的

矯正開始の一つの目安は上の前歯4本が生えた頃!

こども(小児期)の矯正歯科治療(第1期矯正治療)は、比較的簡単な装置を用い、

  1. 部分的な歯の移動を行う

  2. 上下の顎の骨のバランスを良くするために、顎の成長を促進・抑制する

  3. 永久歯が良好に萌出するよう誘導する

  4. 歯並びに影響を与える唇や舌などの悪い習慣を取り除く

  5. 永久歯が生えそろってから行う本格的な矯正歯科治療(第2期矯正治療)を簡単にしたり、治療期間を短くするなど、最終的な咬み合わせがより良く理想的な状態となるよう準備をする

 ことを主な目的として矯正歯科治療を開始します。

治療の効果

この時期に矯正歯科治療を行なうことにより、部分的に歯並びが良くなります。一般的には奥歯の咬み合わせや前歯の歯並びがこれに相当し、虫歯・歯周病にかかりにくくなる、顎の発育が良くなる、しゃべりやすくなる、美的改善により心理的負担が小さくなるなどの効果が期待できます。顎の骨の成長をコントロールすると、上下の顎のバランスが良くなります。また、永久歯の正常な萌出を誘導することにより、永久歯がそろってからの本格的な矯正歯科治療が容易で期間も短くなります。


治療の方法

 

お子さんが乳歯列期(~7歳くらい)では、不正咬合の予防を目的とし原因となる悪い習癖がある場合には、それを除去し正常な機能の回復を図ります。

 

乳歯から永久歯への生え代わりの時期(混合歯列期、8歳~10歳くらい)では、顎の成長が旺盛な時期なので、今後の成長を予測し、必要に応じて顎の成長抑制や成長促進を行います。口腔内では、比較的簡単な矯正装置を用いて歯列弓(しれつきゅう)の形を整えたり、上下の前歯と6歳臼歯(きゅうし)(第一大臼歯)の良好な咬み合わせを確立することを目的とします。

 

矯正歯科治療をうけるためには毎日通ってくる必要はありませんが、おおよそ4~8週間に1度の割合で定期的に通院していただきます。永久歯の生えてくるのを観察したり、適当な歯科治療開始時期まで待つ必要がある場合には、3か月に1度あるいは半年に1度くらいの通院間隔をあけることもあります。


こどもの治療で大切なこと

必要な時期に必要な治療を、できるかぎり短期間・単純な装置で行ない、患者であるお子さんの負担、ご家族の負担を減らし、最大の効果をあげることが大切です。

 

 よく相談をお受けするのが、『かかりつけ歯科で床矯正を3歳、5歳、7歳くらいで始めるよう勧められたのですが、これは正しいのでしょうか?』というものです。

 

 間違いかどうかは、一概には言えませんが患者であるこどもの負担は、これから続く成長期間(矯正治療期間)の長さを考えるとかなり大きくなるのではないでしょうか。さらに、この時期は、重要な言葉の習得、つまり言語発達の旺盛な時期ですので、取り外しができるといっても口の中いっぱいに入る装置(長く口の中に入れていないと効果はありません)の使用は慎重に検討すべきかもしれません。床矯正の「将来歯を抜かなくてよいかも」、「とりあえずやってみましょう」は、危険かもしれないと認識して下さい。矯正の治療や装置は、本当にこの時期に必要なのか?もっと負担の少ない方法はないのか?と考えていただきたいです。そして先生に尋ねてみて下さい。

 

最近、床装置(拡大装置-あごを広げるプレート)だけでなく『ムーシールドを何年も使用したがこどもの歯並びが全くよくならなかった。その歯医者に通い続けて良いのか?』という相談をたびたび受けます(インビザライン、マウスピースなどの装置も治らない、上下の歯が咬めなくなってしまったなど、よく相談されます)。これも、装置があっているのか?こどもの性格に、年齢に、状況に、と判断してみると、多くの場合、装置がこどもに合っていないため効果を発揮できていない状況にあるようです。これでは、子供や家族にとっては、いや、矯正医にとっても負担が増すばかりです。

 

例えば、第1期矯正歯科治療は、おおよそ12歳、13歳くらいから始まる第2期治療のための準備として、この時期にしか行えない治療ですが、診査・診断の結果、お子さんの第1期矯正歯科治療はほとんど必要がない、もしくは口の中の管理をしながら永久歯が生えそろうまで矯正装置を使わずに待つということもあります。根拠のない、必要のない、無駄な矯正装置の装着や治療は、当然避けるべきで、そのためには、最初の相談・診断をしっかり行い将来の予測を含め治療計画を的確に立案することが重要です。

こどもで始めるメリット 受け口、出っ歯、凸凹は大丈夫?

受け口や出っ歯、歯の凸凹など歯並びについて早い年齢で矯正医に相談されることは、お子さんにとって治療期間と費用を最小に、そして治療効果を最大にする大きなメリットがあります。実際には、その場ですぐ治療を行うのではなく、最適な治療時期や、いつ、どのような治療を受ければ良いかなど正しい情報をえる機会になります。

 

「こどもはいつ受診(初診相談)すれば良いのか?」とお父さん・お母さんから訊かれることがよくあります。これは「受診すること」イコール「矯正歯科治療を開始すること」と思われているためではないかと考えます。しかし、決してそうではありません。治療開始のタイミングは、歯並びの状態や成長発育の段階などを含めて総合的に判断します。つまり、不正咬合に気づいたら、一度相談されてみて、その上で治療開始のタイミングが早いようであれば、矯正医とともに観察を続けながら治療開始の最良の時期を待つことをすすめます。矯正医の管理のもとで定期的に観察を行うことは、お子さんの成長変化を把握する上での貴重なデータとなります。 

「相談する時期は?」歯並びの相談を受けられる時期をあえて言うなら、小学1・2年生が一つの目安かと思います。1年生になったら、「矯正は必要なの?」「いつ始めればよいの?」と相談していただくことをお勧めします。

 

治療は、お子さんの小さい時期に開始されれば、早ければ早いほうがよい、と言うわけではありません。しかし、適切な時期に治療を開始した結果、成長が終了してからでは治しにくいものがきちっと治るということがあります。たとえば、歯を抜かずに治せたり、歯を抜く場合でも本数を減らす、あごの成長をコントロールすることで手術を必要とする治療の可能性を減らす場合があります。 

主訴 前歯が出ている。全くかみ合わない。

初診時、11歳 下顎側切歯が両側先天欠損、転倒して前歯をぶつけてひびが入っている。

 受傷した前歯に失活や根吸収、アンキローシス(骨性癒着)が生じていないこと、歯が適切に動くことを確認した後、ヘッドギア、上顎小臼歯を抜歯してマルチブラケット装置を用いて動的矯正治療を行った。14歳時に保定へ移行した。保定は、2年以上、希望により5年以上経過観察しているが咬合は大変安定しており、口腔衛生状態も良い。

 

 著しい前歯の突出は、学童期にぶつけて歯を損傷するリスクを高めると言われています。前歯の萌出後、8歳~9歳ごろに矯正治療の管理を始めてすみやかに被蓋を適正にする方が良かったと考えられる症例です。

矯正治療中の注意点

治療中の行動制限

 

一般には矯正歯科治療開始後の行動制限は特にありませんが、顔面に強い力を受ける可能性があるスポーツを行う場合には事前にご相談下さい。取り外しの出来る装置を用いる場合、水泳などにも注意が必要です。

 

矯正装置の装着中、楽器演奏などに影響の出る場合があります。トランペットやホルンのように唇にマウスピースを押しつけるタイプの楽器は、固定式の表側の矯正装置がついていると、唇が装置と楽器にはさまれて痛みを感じることがあります。ガードをつけること、裏側矯正を選ぶことやインビザラインのような取り外しが可能なタイプの矯正装置を選択することも対策のひとつですが、お子さんの装置をつけ始めた時期と楽器を始める時期が重なり、どちらにも慣れていないことが一番の原因と考えられるため、解決の近道は少しづつ慣れていただくことかもしれません。

 

矯正装置は、治療終了後取り除くことが出来る方法で歯に取り付けます。従って、装置が壊れるような、食事のとり方や種類についてお気をつけ下さい。特に固い物を食べる際は、少し細かくするなどの工夫が必要です。

 

◎注意が必要な食べ物
粘着性のある食べ物: おもち・ チューインガム・ べたべたした飴・ キャラメル
固い食物: せんべい・ あられ・ 肉のかたまり・ りんごやかきの丸かじり・
アイスキャンディー・ ドロップ
大きな氷・ 飴など

こどもの顎変形症 治療と対応

早期治療について

こども(小児期)の反対咬合、出っ歯、歯並びのズレにおける第1期矯正歯科治療の開始時期に関しては、混合歯列期前期(永久歯の前歯4本が生えた時、8歳-11歳)から始めるのが最も一般的です。乳歯列期(すべて子供の歯の時期、5歳-7歳)から始めることもありますが、よほど歯並びやあごに問題が出そうなこと(癖や咬み合わせのズレ、歯が抜けてしまったなど)がある場合に限られます。こどもの時期に問題を改善しておくと、これから来る成長を正しい方向へ導くことが可能です。

 

しかし、お子さんにみられる悪い歯並びの原因があご骨や成長の要因が強い場合には、時間の経過(成長)にともなって再びかみ合わせが悪くなることがあります。これは、第1期矯正歯科治療がうまくいかなかったということではありません。骨格の問題は、その性格上成長に伴って大きくなるためです。ですから、早期治療によって一時的に咬合を改善してもその後骨格の不正が大きくなるにしたがって歯のズレも起こり、成長のスパート時期(小学高学年から中学)に顕著に現れます。

 

骨格性の要因が疑われるこどもの治療は、第1期矯正歯科治療としてはまず被蓋(前歯の歯並び)とかみ合わせの改善を行い、正しい機能の獲得と成長の誘導を行います。その後成長の観察を行いながら歯の生え変わりを観察します。成長が終了する時期(中学生頃)に、お子さんの問題を見極めて最終的な治療を判断します。顎の不正が著しく大きく外科的矯正治療の必要性がある顎変形症と判断される場合には、顎矯正治療を開始することとなり、骨格の不正がそれほど大きくない場合は矯正歯科治療のみで治せるので、第2期治療を行い、良い咬み合わせと歯並びになった時点で歯を動かす矯正治療は終了となります。

 

こどもの矯正治療費

矯正歯科治療は顎変形症や口唇口蓋裂、一部の先天異常を有する方以外は健康保険が適用できない自由診療となっています。当院では以下の治療費を頂いております。


治療費

(H24年度実績)※現在とは異なります

目立ちにくい審美(表側)矯正の治療費は、最初から最後まで、およそ中学生まで管理を行う場合の総額で75万円ほどです。

 

こどもの歯並びの治療費は、開始時期、症状、治療目的によって様々です。矯正治療費は10万円~50万円程度になります。

 

◇治療費例

 

《 乳歯のずれ、凸凹7歳、早期改善 》

初診相談料  1,500円
精密検査・診断料  35,000円 

矯正装置料 床矯正 100,000円

(小児の部分矯正治療 歯・あごの健全な発育のために行う)
調節料・観察料

3,000円 x10回 

総額 166,500円



《 こども:少し凸凹10歳、早期改善で成長後も歯並びの安定が予測される 》

初診相談料  1,500円
精密検査・診断料  35,000円

(審美ブラケットによる動的矯正治療) 
矯正装置料  220,000円

(数か月で前歯を並べる)
調節料・観察料

5,000円 x6回 3,000円x8回 

約1年+保定管理も含めて

総額 310,500円

 

 

《 こども:9歳前歯の突出、凸凹、あごのアンバランスが予測される 》
1期と2期治療が必要となるケース

初診相談料  1,500円
精密検査・診断料  35,000円

(審美ブラケットによる動的矯正治療) 
矯正装置料 1期 400,000円

(前歯・奥歯を並べる、骨格の成長コントロール)
矯正装置料 2期 180,000円

(咬み合わせの完成)
調節料・観察料

5,000円 x22回 3,000円x8回 

1期約2年、2期約1.5年+保定管理も含めて

総額 750,500円